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ひぐらしのく頃に   神喰い編(3)
                                                  作   桜葉 遙              作者名                     




 6月22日 
 20時00分。

 いくら初夏でも、夜の8時になると暗闇が風景を乗っ取っている。

 白河ことりは、故郷の島にいた時、青空と海の透き通った清涼感のある景色に慣れていたのか、街灯も少ない闇の世界と化した雛見沢には少し困惑気味だ。

 でも、今となっては雛見沢よりももっと嫌な場所がある。

 それは自分が育ってきた「初音島」という場所だ。

 清涼感漂う青空と青い海に囲まれた島、初音島。

 1日中桜が咲き誇る、メディアでも取り上げられ日本人の認知度は高い。

 いつも学校生活の道で通る桜並木は1年前行っていた桜並木を思い出す。

 でも何だかんだで自分の家を飛び出して1年か……。

「大丈夫ですか? ことりさん。

何か気分が優れない顔をしてますが……、お肉とか焼けてませんでしたか?」

「え? ううん、大丈夫よ気にしないで」      

 少しほうけた姿を見せてしまったのかな……。

 ことりは心配そうに視線をゆがませる少し芯が入っていない弱々しい声と紅色のリボンがトレードマークの友人の芙蓉 楓(ふよう かえで)に少し申し訳なさそうに愛想笑顔を作り出す。

「おっと、そこの肉焼けてるわよ」

 3人で一番年少の彼女の名前は(烏丸ちとせ)、もう日は落ちてツヤが隠れてしまっているロングヘアーの黒髪と何か物静かな感じを受ける落ち着いた純粋の黒色の瞳が印象に残る。

「少し焦げ付いてるね、この肉はもうダメ、新しい肉を焼くわ」

「あわわわわわ、火が強すぎましたね」

「まあまあ、楓ちゃん肉はまだたくさんあるし」

 今はこうして、少し人里離れたバーベキュー場で知り合った仲間達とおしゃべりする事は何かよどんでいた肺の空気が一気に出て行った感触になる。

 一種のカタルシスっていうものなのかな。

「正直こんなに関係がうまくいくとは思わなかったよ」

「ことりさんも良い人だし、私も少し寂しい思いをしてきましたけど」

「2泊3日の旅行でたくさんの思い出を作りましょう」

 ちとせが手際よく肉と野菜をひっくり返していく。

 そしてウインナーとロースが焼けたようだ。

「ちとせさん、ありがとうございます」

 ことりが礼を言うと少しちとせは振り返り、笑みを浮かべながらまた肉を焼いていく。

ちとせは自分の食べる分よりもことりや楓の食べる分を優先して焼いている。

バーベキューのリーダーシップを取っている所は、仕事を辞めて社会人の道を転落したとは思えないハツラツとした手際の良さだ。

「ちとせさんもここで一休みしたらどう?」

 お茶をちとせのコップに入れることり。

じゃあお言葉に甘えてと、ゆったりと席につくと同時に。

「では改めてことりさん、ちょっと2日遅かったですけど19歳の誕生日おめでとうございます」

「え? え?」

 楓も奇襲攻撃といわんばかり、拍手の音をことりに浴びせる。

 そういえば6月20日は私の誕生日だったんだ。

「だからわざとこの日に旅行したのよ、プロフィールに書いていたしね」

「ありがとう、私なんかのために」

 目が少し虚ろになってきちゃった、なぜなのかな?

「ハッピバースデー トゥーユー」

 2人の祝福の言葉がことりの耳を絶え間なく刺激し続けていく。

「乾杯の音頭もしましょう」

 去年なんか、誕生日の事なんかすっかり忘れていたのに……。

 皆の顔がかすんで見えてきちゃった……。

「何か私は結構人に嫌われてきたけど、でも実際にことりさんのために何かできることないかなって考えていくうちに、結構人の事も考えられる人間なんだなって。

改めて自分の人生を振り返ってみても、社会人が嫌になってOLを辞めて。

 上司が嫌、仕事が嫌、嫌な人生をパソコンでまぎらわそうとしたけど……。

 やっぱり、そういう事をしてても嫌な人生が終わるとは到底思えないことがわかった。

 違う人と一緒に考えて一緒に歩んだ方が世界は広がるってことよね」

 楓も数回相づちを繰り返した後、口を開いた。

「私もちとせさんと同じ理由です、人間関係です」

 ことりは麦茶を飲みながら、楓を見る。

 少し彼女は視線を机に傾けたまま、喋り始めた。

 ネットでもそういうような事を言っていたけれど、実際に交流してみるとお互い分かり合えたのは、同じ悩みを抱えていたからかな。

「私には同じ居候の男の子がいたんです、凛君っていう人なんですが……。

 私一生懸命頑張ったんですけど、あまり振り向いてくれなくて」 

 ことりは相槌をうちながら、楓の表情を少し伺う。

「でも、私わかったんです。

 私には凛君っていう人しかいないと思ってたけど、実際はそうじゃないんです。

 ちゃんとわかってくれる人達が傍らにいてくれている……。

 もう少し頑張ってみようかなと思ってきたんです」

 ことりが少し喉をうるおした後、口を開いた。

「そういえば私も人間関係だったな、もっと具体的に言えば失恋かな」

「失恋ですか……」

「うん、まぁよくある恋愛物語という感じ。

 私の方が一方的に好きになってたのかな……、私の住んでいたところは1年中桜が咲き乱れる“初音島”という場所なのだけど、桜が散ってから私の恋愛運も下がっちゃったのかな、ふふ」

「ことりさん、何か男の人の写真持ってたよね」

「これなんだけど」

 写真には涼しそうなワンピース姿に身を包んでいることりと、二人で写っている外見は高校生の男子。

 ハツラツとした顔つきから活発な好青年に見え、写真からちとせと楓は彼の人柄が容易に想像できた。

「朝倉君っていうの、私と同じ高校生」

「素敵な方ですね」

「守って欲しいようなタイプって感じってかしら。

 何か、ことりさんが好きになるのもわかる気がする…」

 ことりはポケットに朝倉君という今も忘れられない彼の写真をそっとポケットにしまった。

「もうその島を出てから1年になるけど、元気にしてるかな」

「大丈夫、この写真だと後100年くらい生きられるわ」

 ちとせが数回ことりの肩をたたき、ことりは写真と同じような微笑みの表情を作ってみせた。

「何だかすっきりするね」

 口から吐きだされた皆の過去の黒い歴史が、宙に浮いているのを見るのはなんとも爽快だ。

「嫌な人生だったのかもしれないけど、皆で一緒に頑張っていけば何とかいける気がする。

 まだ人生にやり直しが効く、それだけでもわかった事は進歩だと思う、私たちにとっては」

 自分を生き生きと感じる顔をお互いに確認しあいながら、もう一度乾杯の音頭を上げた。

 

 朝倉君……、私って気づかないうちに幸せになってたんですね。

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作者のあとがき


今回はメインではカットするつもりだった深衣奈とは別のことりのエピソードを投稿しました。(どちらかというとサブストーリーっぽい)
一応、このままだとことりの存在感がなくなると思ったからです。
一番の特徴としては「SHUFFLE」の芙蓉楓と「Galaxy Angel」の烏丸ちとせを登場させたことでしょうか。
まぁひぐらしといってもサバイバル系なので、生きるか死ぬか……果たしてどうなることやら(ォイ、マテ)



少し予定が狂いましたが次はまた本編を投稿します。
順番としては次が地下祭具殿→レナの過去→事件発生、展開。
という感じです。


後、1週間したら「ひぐらしのなく頃に解」が始まりますね。
去年の悪評を跳ね返すことが出来るかどうか。
ポイントは「皆殺し編」と「祭囃し編」のストーリー構成と、羽入ですね。

                                              


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