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ひぐらしのく頃に   神喰い編(4)
                                                  作   桜葉 遙              作者名                     


6月22日 21時30分。

「今日は久しぶりに楽しい夕食でした」

 夜空がまぶしい、今の時期は春の大三角形と夏の大三角形の星における2大叙事詩が夜空を支配している。

「今日はことりさんの誕生日だし、何か良い思い出を作れないかって考えたところ、ちょっといい所を見つけたんだけど」

 ちとせがバーベキュー場の帰り道に得意げに2人に見せたのは、切れてぼろぼろのある古びた週刊誌のようなものだった。

「この雛見沢はあまり有名どころは知られてないんだけど、昔の雑誌を入手して見てみると

 どうやら、心霊スポットらしきところがあるようなのよ」

 ―――潜入 雛見沢怪奇スポット。

小型のリュックから懐中電灯を取り出したちとせの行動にことりは見当がついた。

「今から行くところは、その怪奇スポット?」

「まぁちょっとパソコンで調べていたら、昔の雛見沢の遺跡みたいなところよ。

 少し古手神社を通っていってから、そこへ行こうかなと」

 楓がことりの手をそっと握った。

「私、怖いの苦手なんですけど」

 ◆ 

6月22日 22時00分。

 深衣奈は少しソファーで横になっていたが、何か目覚めが悪いようだ。

 不気味な話が苦手なあまり、逃避するべく酒の量がいつもより大目に飲んだらしい。

 少し空調の良い部屋でも、起きるのが何気にだるい。

「大丈夫ですか? 深衣奈さん」

 知得留が相変わらず物腰の柔らかい姿勢で水と薬を持ってきた。

「ありがとうございます、少し気分がよくなると思います」

「いえいえ、いいんですよ」

 少し頭がスッキリしたのか、司会から広がる世界が明瞭だ。

 乙女達が何やら出かける様子でいる、どこへ行くんだろう。

 誠が目覚めた深衣奈に気づきそばによって来た。

「お前、ああいう不気味な話とか苦手なタチだったよな。

 まぁ思ったより早くなおって良かったよ」

「心配かけてごめん」

 乙女も隣部屋で支度していたらしく、小物を入れるリュックを背負っている。

「目が覚めたか、深衣奈。散歩がてら肝試し行かないか?

 まぁ怖いのが苦手なのはわかっているんだが、せっかく来たんだから思い出でも作ろう」

 深衣奈はどこに行くか詳細は聞いていなかったが、ここで呆けてると何か自責の念に刈られそうな気がした。

 ……乙女先輩が笑っている……ご機嫌そうに。

 行かなければ、上官命令だ! とか言われて引きずられていくかも……。

「はい、酔い覚ましに私も行きます」 

 

 ◆

 

 6月22日 22時20分。

知得留や助手のメイドは別荘に残り、深衣奈・乙女・誠・千華留は少し歩いて15分のところにある少し話題になっているスポットに向かっていた。

深衣奈はその場所を知らず、どうも千華留の話では雛見沢において権力を持っていた旧園崎家の敷地にある地下祭具殿という場所なのだが……。

場所がどんなところか想像がつかない。

深衣奈はそう思い、歩きながら平衡感覚も確かめた。

前よりは少し酔いはさめているようだ。

「このへんだよ、例のスポットっていうのは」

散歩感覚で世間話をしていた深衣奈の口と足の動きが止まる。

恐怖スポットに向かうまでの緊張感を何とか世間話でごまかしてはいたのだが……。

口も動かせすのを許してくれない暗闇が5人の前に立ち塞ぐ様に広がっている。

「びびった?」

「な、何がよ!」

誠が半分にやついた顔つきで怖いのを必死に隠そうとする深衣奈をからかう。

二人がからかうのをよそに、乙女がリュックから数本の懐中電灯を取り出した。

「宮藤深衣奈一等兵! これからが本番だぞ」

 乙女はコンパクトな懐中電灯を渡したが、人並み以上に鍛えている深衣奈の腕にはなぜか重く感じる。

「さぁ、肝試しの始まりだ」

誠が始まりの合図をすると、乙女と千華留が躊躇なしに暗闇の中に身を投じる。

「俺達も行こう」

「手を離さないでよね」

距離は森の入り口から目的のスポットまでそうはなかった。

たぶんひぐらしの鳴き声の発信地であろうと思われるこの森も、今は何事もなかったように静まり返っている。

「おい深衣奈、手強く握りすぎだって」

明かりも標識もない森の中を千華留は地図に頼ることなく進んでいく。

 懐中電灯の光の柱が変幻自在に、森を我が物顔で走り抜ける光景は滑稽な感じだが余計に不気味さを演出してくれる。

 これって何かの嫌がらせ???

「ここだよ」

「ッわ! ちょっと!」

 懐中電灯の光が音も前兆行動も出すことなく、視界に捉えきれない深衣奈の顔面を捉えた。

千華留の悪ふざけなのか、良心で着いたことを懐中電灯で知らせてくれたのか……いずれにしても暗闇でわからなかった彼女の情けない表情が光によってさらけ出される。

「だから、私は怖いものが苦手なんだって……!!」

「まぁまぁ、わかったから」

 誠がダダをこねる子供をあやすようになだめていると、千華留が、自分のバッグから鍵の束を取り出した。

「昔は園崎家というこの地の名家の土地だったけど雛見沢大災害の後、私の祖父がここの土地一帯を買収し―――」

「誰だ!」

 草木が乙女の咆哮する声にざわめき始め、4人の視線は一気に木の茂みに移る。

「ひっ!!」

「べ、別にあやしい者じゃないんです」

「わッ!! ことりさん!?」

「深衣奈さんですか?」

 深衣奈は少し呆けた表情で、ことりの顔を懐中電灯で映し出す。

「知っているのか? 深衣奈」

「キャンプ場で洗剤を貸しただけなんですけどね、先輩」

 乙女の目つきがやわらかくなった、どうやら怪しい者じゃない事はわかってくれたようだ。

「ナンパでもしたのか?」 

 ううんと深衣奈は首をかしげ、おどけて見せた。

「例の心霊スポットがあるという噂ででここに来ましたか?」

 ちとせが恐る恐る千華留の顔色を見ながら縦に動かす。

「はい古い雑誌でここが結構人気スポットだと聞きましたから。

 いいえ、別に無理やり入るとかじゃなくて、鍵がかかっていたから帰ろうとしていたところなんです」

 乙女の目つきがまた鋭くなる。

 もう、乙女先輩が嫌いな言い訳を言っちゃうんだから……。

「こらこらもう森の中を入ろうとしたところで無断侵入だぞ、森に入る前に柵があっただろう」

「あの先輩、こんな薄暗い森でまた説教ですか? かんべんしてください」

 千華留達に3人は同時に頭を下げた。

 うんざりしている深衣奈をわかったのか、乙女も彼女達の口を閉じた。 

「旧園崎家の土地を私の家が買い取りました、だからもうここは私有地なんですよ」

「私有地でしたか、本当に申し訳ありません」

 千華留は何度も謝っている3人をよそに、地下祭具殿を封鎖している鎖と南京錠を外した。

「ちなみに私たち今からここに入ろうと思うんですが、ついでにどうですか?」 

しかし、深衣奈は心底ホッとしていた。

 ことりがいるから少し話し相手をしてくれれば、この引くに引けないこの状況を何とか打開することが出来るのではないかと。

(いや〜、まさかことりさんがこんな所にいるとは思ってもみなかった。

 この森の怖さよりも、ことりさんがいた事に一番ビビっちゃった)

(それをいうならこっちのセリフですよ)

 というような会話が出来ればいいか、深衣奈が懐中電灯を向けた先はさっきした想像を一瞬にして吹き飛ばしてしまった。 

 

 

それは何かを守っているように深衣奈たちの前に佇む、古びた鉄製の観音開きの扉だ。

こんな森に何で鉄の大扉が……?

中が何かしら重要なことが隠されていることが容易に想像できるのだが―――。

雑誌が取り上げたい理由が何気にわかるような気がする、取り上げたい理由は?

 懐中電灯の光を内部へと照らすと無数のホコリとチリと羽虫が、投影される形で深衣奈達をお出迎えする。

「誠、ちゃんと手を離さないでよね!」

「わかってるって、それさっきも言ってた」

 千華留の案内で階段を下りて行き、そのまま奥へと進んでいく。

 通路の途中で千華留が電気のスイッチを入れた瞬間、深衣奈が大きく安堵のため息を吐いた。

「電気が通っているなら通っているって言ってくださいよ」

「ごめんね深衣奈さん、でも30年もたっているから接触の悪い電気も多いけどね」

 電球は古くいくつはつかない部分もあるが、地下内部は電気が通っているらしい。

 少し深衣奈の心臓が静かになった。

 代わりに地下から来る風が、深衣奈の額の汗を少し冷やしてくれる。

 ふぅ、これなら少し安心……。 

深衣奈一行は内部を進んでいくと、木造のトンネルが通路となって入り組んでいた。

 自衛隊の授業でも似たような写真を見せられたことがある。

よく木造のトンネルを塹壕や司令部にしている戦時下における旧日本軍の資料だ。

 土蔵のような空間と居住できるスペースがあり、スペースや地下の深さを考えれば防空壕や備蓄倉庫における戦略的価値は結構高いものがある。

 園崎家がただの名家ではないということが、この地下祭具殿から読み取れる。

「聞きたいんですけど、祭具殿の祭具って何ですか?」

 ことりがさりげなく千華留に話を振る。

「祭具っていうのはね、昔雛見沢の住民が綿流し祭に使う道具なの。

 見た目でわかるかもしれないけど、よく見たら全部拷問道具に見えない。

 綿流しの元々の語源は臓器の腸(わた)、腸流し(わたながし)なのよ」

「腸流し……趣味が悪いツアーですね」

 千華留が綿流し祭で必ず一人行方不明になるという説明は何気に納得いった。

 拘束具がある光景を目にしてしまうと祟りじゃなく、人為的な事件だという考えに至ってしまうのは別に普通の発想のはず。

 ところでさっきから、ことりの友人の楓は口を押さえている手を一向に離そうとしない。

 ことりが気遣うように、楓の傍に付き添っている。

大工道具に見えなくもない種々道具の説明が、千華留から明らかにされていく。

女性の力では扱うのが難しそうな大型の刃物、いびつな形をした槍、ある程度成長した人間なら簡単に縛り付けるのが容易な拘束具……etc

そして、見せしめに拷問されている人間を見るための鑑賞席まで用意されている。

「千華留さんの話を聞いてたら、雛見沢の住民達って結構暇人なんですね」

「深衣奈さんジョークが出る余裕が出てきたのかしら、ふふ」

 深衣奈の口から出たジョークはみんなの口から少し笑みを作り出した。

「でもこういうものが残っているから、普通に考えれば祟りとかはおかしいんじゃ―――!?」

 

 

―――助けて

 

 

深衣奈の顔がとっさに声のした方向に視線を向けた。

「今の声は何? ちょっと冗談辞めてよ!」

「何ムキになってんだ?」

「だって、私の耳元でつぶやいたのよ」

場にいる全員が呆けた表情でじっと深衣奈の顔を見つめる。

「う〜ん、この場にいるのは私たちだけだと思うんだけど。

 元々ここにいたとしてもカギがかかっているしね」

千華留の話に、深衣奈は納得せざるを得ない深衣奈。

「それに耳元でささやいたと言うが、私は深衣奈のずっと後ろにいたぞ」

 深衣奈もわらを取り戻したように冷静に考えてみた。

 一瞬だったが先輩の声ではなかった、それにそういう冗談をする人間でもない。

 若い女性のようだった気がする、状況を考えてみると事故か事件に巻き込まれた時のことを考えるのが自然だ

「お前の怖がりが幻聴を生み出したんだよ、お前俺の手をずっと握ってたじゃないか」

 誠にそう言われるのは何かムカツくけど、これ以上言っても何か逆に誤解を与えそうだ。

「みんなの言う通り、幻聴だったかも」

 でもことりが少しまだ行ってない奥のフロアに視線を移した。

「でも、私もあまり聞き取れはしませんでしたが何か声はしました」

 ことりもちらっと声のした方向に視線を移す。

「あの私も……、何か声がしたので気味が……」

 言い出しにくそうに伝える楓。

「向こうなの?」

「はい、何か私と同じ似たような声っぽいです」

 深衣奈はことりがそう言ったのかとも考えたが、大人しい人柄の彼女がしょうもない冗談を言うとでも……と想像してしまう。

 彼女の聞き間違いだろう。

 千華留は移動して、電灯が壊れていないのか作動していない暗闇の一帯を懐中電灯で照らしてみた。

「地下祭具殿はここまでだし、何かやっぱり私たちの音が反響して聞こえた声なんかじゃないかしら、後は小動物も考えられるけど」

 ことりは少し首をひねながらも。

「そうかもしれませんね」

 楓もその後、自分を納得させるように首を縦に振った。

 2人が完全に納得したのかは定かではないが、雛見沢においてたくさんの伝承があるくらいだ。

 やっぱり、何か違和感を感じるなぁ。

 深衣奈は明かりの点いていない一帯を少し歩いてみた。

 確かにこちらから聞こえた感じがするんだけど。

「深衣奈さんそこは古井戸で危ないですよ」

 風が外みたいに熱気に包まれた風ではなく、冷たくなった風となって底から強く地表へ押し上げている。

古井戸にしたら少し深いなぁ。

懐中電灯で底を照らしてみたが、光は途中で途切れていて底が見えなかった。

相当深そうだ、転落すればひとたまりもないだろう。

 近くには簡単な鉄柵が設けられているが、サビによって腐食していてもたれたらどうなるものやら……。

「昔、ここは死体捨て場だったのよ」

「そうだったんですか、何か深いですね。

 ちなみにそこに付いているハシゴは何の意味が?」

「ここに通じるルートが井戸の底からここまで繋がっているのよ、何本かは発見されているけどね、結構巧妙に作られているらしくてまだ何本かはまだ不明なのよ」

「結構、ミステリアスな場所ですね」

 千華留はその後も、ガイド役の仕事を淡々とこなすように話を続けた。

 どうもこの場所はダム闘争の隠し拠点として機能していたようだ。

 園崎家が中心となって地下工作活動をおこなっていたことも明らかとなった。

雛見沢……、正の意味でも負の意味でも大きな“歴史”という財産を持っている雛見沢村。

 もうここも観光地、事実が知れ渡るのはそう遠くない未来だろう。

 

 

 6月22日 23時55分。

 深衣奈も千華留の話をおとなしく聞いていたが、耳は話を聞かず常に声の主が聞こえた置くの岩盤にずっと今か今かと待ち望んでいたのだが――。

しかし結局声を再び掴むことは出来なかった。

何もなかった……それは結局幻聴だったことを意味する。

「深衣奈、大丈夫か?」

 深衣奈の様子に乙女が気を使って声を掛けてきてくれた。

「少し疲れたのかもしれませんね」

「長旅の運転、クレー射撃大会、飲み会と続いたんだから疲れて幻聴を聞いても当然だ。

 今日はもう休め」

「そうですね」

 途中でことり達と別れて、今は家代わりの別荘へ向かう。

 やっぱり疲れているのかな、今日は誠と過ごす夜が楽しみだっていうのに。

 まぁ、あんなこと早く忘れて誠と楽しく夜を過ごそうっと。

 でも疲れても話の種は尽きなかった。

 話の種は思い出の種。

 疲れたのも良い思い出だし、出会いも良い思い出。

「でも何だかんだで楽しい思い出でした」

「いいのよ、深衣奈さん」

 話は尽きず、片道15分の距離も夜になって少し涼しくなった風も夢中のあまり感じなくて。

 我が物顔でまだ整備がされていない土手を歩いていく。

「別荘にご到着〜」

 ふぅ、さてインターホンを鳴らしてきましょうか。

 ん? 何か一人の少女が別荘の入り口の前で佇んでいる。

「何してるんだろう、こんなに遅くに」

 深衣奈はお気に入りの時計であるG-Shockを確認した、時間は11時55分だ。

 どう見ても小学生にしか見えないが、でも年とかはどうでもいい。

 ただでさえ街灯もまばらな道が多いのに、危ないのは目に見えている。

「誰かの知り合いですか? 先輩」

「いや、知らないぞ」

 とりあえず、その子に近づいて顔の視線を合わせて話をしてみた。

「どうしたの? こんなところで」

「にぱ〜☆ ちょっとここの家に用事があったのですよ」

「用事って何の?」

 迷える女の子は何か塀のところに、何かは聞き取れなかったがぶつぶつ何か独り言をつぶやいていた。

「ボクは少しこの大きなお家に悪い悪い人が入らないように悪霊退散をしているのです」

 子猫のような愛くるしさを深衣奈達に振りまきながら、マイペースに自分の置かれている状況をわかっているかいないかは不明だが、ずっと入口の所で何やらブツブツ独り言をつぶやいている。

 神秘なのか変な子なのか……、というよりどこから来た子かな。

「家教えてくれたら、お姉ちゃん達が送っていくよ」

「みぃ〜☆ でも大丈夫ですよ、ボクはここの出身なのです」

「でも、さっきそこの道と通ってきたけど、街灯が少なかったよ」

 誰かはわからないけど、愛嬌のある顔立ちで首を横に振った女の子はそのまま何を考えているのかはわからない無邪気にそのまま走り去っていった。

「変な子……」

 そう思ってドアのほうに視線を移すと、何か声がした。

 さっきの女の子の声だ。

 

 

「早く鬼さんたちが帰ってくる前に帰ってくださいね―――」

 

 

 何か彼女の重々しい声に両目が反応して後ろを振り返った。

 私だけ?

 振り向いた瞬間の出来事だった。

 何か自分の中の心臓が動きを止めたような気がする、血が流れていない。

自分が呼吸すらしていることを感じない。

 動きを止めたというよりも、時が止まっている感覚に近い。

 止まっているのは自分だけではない、先輩も誠も千華留も何かのパワーによって動きを止めてしまっている。

 どうしたんだろう? さっきの意味深な女の子の発言に耳が反応してからだ。

 動けと命じなくても普通は勝手に口が動くのに、動けと命じても口が開かないどころか動くそぶりもない。

 

 

「祭具殿の声を聞きましたか―――?」

 

 

 また彼女の声だ。

 しかし今度の声は子供というイメージができない、低音で生気のない世間を虚ろで見つめ続けているような声。

 時が止まっているが、なぜか声が耳から伝わっている。

 視線を合わしたくない。

なぜあわせたくないのか理由はわかっている。

 突き刺さるような、次に来る質問への恐怖が深衣奈の心を束縛していく。

 

 

「貴方の表情を見ていると、どうやら耳にしたということのようね。

 さて、これ以上質問するなって声がしたし、じゃあ後ひとつだけ忠告させてもらおうかしら」

 

「……」

 

「竜宮レナには気をつけなさい」

 

「ッ!」

 

 竜宮レナ……レナレナレナ………。

 何か残像が浮かんだ。

 私の精神世界に竜宮レナのDVDを入れたように映像が再生される。

 暗い瞳、生気の無い視線、持っているのは人の……。

しかし映像が流れた瞬間、クサイものに蓋をするようにすぐに心が記憶を奥底に封印してしまった。

 

 

「今年の綿流し祭は彼女が動き出す、それまでに立ち去れ」

 

 

 せき止められていた身体の各機能が動き始めたのを感じた。

 元に戻ったの? 思わず胸に手を当ててしまう深衣奈。

心臓の鼓動を感じるが、同時に血液が流れていない感覚に陥っていたのか血液が心臓から体中から流れている感じがする。

 時計を見てみよう。

 11時55分だ。

 この現象が起こったのならば、時間は経っていないはずだ。

 1分も1秒単位も。

 しかし、確かに体験したはずなのに記憶にノイズが入ったように所々にしか記憶がない。

 もう一度振り返ってみる。振り返るとその場を立ち去ろうとした梨花がこちらの心を読んだのかこちらに向いてきた。

 

 

「にぱ〜☆」

 

 

 彼女は決して無愛想には見えない、素敵な小学生の純粋さを感じる笑顔を作って見せた。

 まだ人生を歩み始めた何も知らない無邪気な声だ。

 しかし何も感じないの? 私みたいに何かリアクションをとってもいいはずなのに。

「先輩、何かこの数秒間何か感じませんでしたか?」

「ん?」

 少し首をかしげるしぐさをする乙女。

「無邪気だなぁ、何事もなかったように走り去って行ったな」

「まったくだよ、乙女」

 乙女と誠が少し苦笑いをする。

 心臓は止まらなかったの? わずか数秒の出来事に何でリアクションがないの?

 

 

 帰り際に彼女はまた振り返った。

 

 

「お姉ちゃんたちも気をつけてくださいね」

 

 

「え?」

 

「明日は30年ぶりの綿流し祭ですよ〜☆」

 

 綿流し祭、綿流し祭、綿流し祭、綿流し祭、綿流し祭、綿流し祭、綿流し祭、綿流し祭…。

 彼女は30年ぶりに行われる祭りに役者が揃ったかのように待ち望んでいたかのようだった。

 “明日は綿流し祭”から“今日は綿流し祭”になるまで残り……。

 

 

  後、分。

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作者のあとがき

少し設定がトラブってしまいました。
綿流し祭は必ず6月20日に行われると思っていましたが、どうも日付は決まってなく6月の第3週か第4週に行われるみたいですね。
確かに白河ことりの誕生日が綿流し祭の日と同じでしたが、こちらの世界の設定では、本編の30年後の世界なので少し暦も変わってしまうのです。
それを忘れてました(汗)
一応変更点としては、ことりの誕生日についての会話の変化・そして暦の変更です。
読んでくれている人に申し訳ありません。


今回の話でとりあえず少しずつではありますが、動き始めています。
まず唐突ではありますが梨花の初登場シーン。
梨花も今回の話に絡む、キーパーソンです。(特にレナと)
後、誰かの悲鳴のシーン(……複線です)、次のシーンで明らかにするかもです。
そして少しズレましたが、次の話はレナの過去エピソード、そして雛見沢のメンバーも登場します。



※何とか今月中に次の話まで投稿したいですが、7月は基本的に忙しいので、いつになるか自信がありません(汗)
  8月もホームヘルパーの研修で1ヶ月ホームページが更新できないので、気長に待ってもらえたらうれしいです。
  すみません m(_ _)m
  
                              


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