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ひぐらしのなく頃に 神喰い編(1)
作 桜葉 遙 作者名
6月22日 11時20分
青空ってなんて幸せなんだろう。
雲ひとつなく、一色だけが空の色を独占したような光景に少し憧れてしまう。
そんなことを思っているうちに、フロントガラスから見る光景が工場・ビル等の独特の都会の景色から山・田緑の景色に移り変わっていた。
今、都会から田舎の光景が移り変わっていくのを眺めることが面白いということにふと
気づく。
自然を眺めながら宮藤深衣奈(みやふじ みいな)が運転している4WDはキツイ紫外線をガンガン浴びながら、堂々と国道の山道を走っていた。
4WDの重量感と、山道独特の運転席のバックミラーと共に付いているシュノーケルが力強さを物語っている。
しかし、力強さがあるのは4WDだけではない。
普通の車より重いハンドルを持っているのにも関わらず、彼女の腕は普通の女性より引き締まっておりたくましい二の腕が疲れる様子はない。
いくら動作をしても疲れを見せない腕は自慢できる要素の一つになっていた。
「雛見沢までもうすぐね」
山道に入って1時間半は経つ。
運転席から見える緑の景色は深衣奈の心に清涼感をもたらしていた。
いつも戦闘車両や訓練での騒がしさを聞いている深衣奈にとっては“静か”なイメージを想像させてくれる緑は心地好く睡魔を呼んでしまいそうだ。
“雛見沢村まで5キロメートル”
深衣奈が看板を発見し、ちらっとカーナビを見る。
設置した目的地までもう少しのようだ、5キロが2キロにも1キロにも感じた。
「もうすぐ目的地、ベルト着用! 総員着陸に備えよ!」
軽口を叩く深衣奈の横の助手席でどっしりと座っている鉄 乙女(くろがね おとめ)もつられるように笑みを浮かべる。
「ふふ、深衣奈はともかく雛見沢は相変わらずだな」
彼女は凛とした魅力の和風美人を兼ね備えている自衛隊員だが、それ以上に普通の女性にはない男勝りな風貌が普段からにじみ出ていた。
乙女の笑みも普段のクールな姿勢と比べたら気分は悪くないなと、深衣奈は思った。
「乙女先輩、自然にホれちゃいましたか?」
「ん? ああ、私達があまり目にすることはない世界だからな。
この写真集を見ていると心が洗われる気分だ」
乙女が読んでいる写真集のはさまざまなアングルから、あらかじめ誰が用意したのかわからない演出された自然が映し出されている。
色も人間が表現することの出来ない絶妙なコントラストが人間の目をやさしく包んでいる。
勿論人間技でなせるものじゃない、もしかしたら人間が一生作ることの出来ない世界なのかもしれない。
写真集に夢中の彼女は視線を次のページへと向けた。
一方、後部座席に座っているのは伊藤誠(いとうまこと)。
23歳だが少年という印象をまだぬぐえ切れてない印象だが、自衛隊隊員の深衣奈と乙女にとっては大人しくて女性的なオーラを放つ男にはないギャップが印象的だ。
「なぁ深衣奈、雛見沢って自然だけだが別荘は館並みの規模だ。きっと気に入ると思う」
「誠は1回行ったことがあるんでしょ、雛見沢に」
「ああ、まぁ俺はほとんど何も出来ないし、のんびりと自然を楽しむだけ」
深衣奈は鼻息で笑いながら、ちらっと誠の方を見た後運転に集中した。
誠はあまり得意分野ってないからなぁ、彼のそういう欠点に必ずといって良いほど乙女先輩が食いつくんだもんなぁ。
「この軟弱者は何もできないからな、少しは身体を動かせばいいものを……。
私もこの機会にコイツの根性を叩きなおそうと思う」
乙女の言葉言葉が誠の背筋に突き刺さる。
誠は場から逃げるように愛想笑いしながら、そばのペットボトルにわずかながら残されている水を飲み干した。
「深衣奈も今からしっかりしないと、一生涯誠に振り回されるぞ」
「え? 何言ってるんですか? 乙女先輩」
少し運転している両腕に力が入ってしまった。
このままでは乙女先輩の流れになってしまいそうだ、話題を変えてみよう。
「ところで千華留さん、今年で“何とか”祭が30年ぶりに行われるっていってたけど、それってどういうことなの?」
源 千華留も乙女と一緒だが違う本を読んでいた。
背中に広がる豊かな長い髪に耳の辺りには三つ編みにりぼんが付けられ、やわらかい視線を放つ瞳は表情が豊かな彼女の印象を物語っている。
一方の乙女という名前は彼女の方が似合っていたのかもしれない。
本名を持つ乙女自身も、短く切りそろえられたシヨートヘアでは品がないと思い、ヘアピンを右サイドに取り付けてあるが、凛とした表情を生み出している鋭い瞳のせいで名前負けしてしまっている。
「えぇ、明日行われる綿流し祭のことよね」
千華留は本を閉じて深衣奈の方を向いた。
何の本だかはわからなかったが、すっかり色あせた今の時代に取り残された古本雑誌みたいな感じだ。
「綿流し祭というのは古来雛見沢で行われてきた儀式みたいなものなのよ。
最近の数年間から雛見沢は観光地区として開発されてきたから、まぁ理由は観光客目的ね。
なんで中止したのかというと元々あの儀式は30年前に起こった“雛見沢大災害”が原因でタブーとされてきたから、まぁ開きたくない側の言い分もわからないでもないかな」
「そうなの、“雛見沢大災害”がどういう事態かは明らかにされてきたとは聞いてたんだけどね。
まぁ30年経ったらそろそろ村おこしのためにやってもいいかもですね」
「もう30んんも経っているわけなんだしそれが自然の考え方よ、深衣奈ちゃん」
千華留が頭を数回縦に振って、再び例の本を開いて読み始めた。
まぁ、30年前の話だし……。
深衣奈はあまり気にせず、彼女達が乗った4WDは静かに目的地である雛見沢に近づきつつあった。
◆
「今日はまだ涼しいほうね」
駐車場がちゃんとあるじゃない、ラッキー。
深衣奈は車のキーを抜いた後、夏独特の強い紫外線にも負けず何かが吹っ切れたように素早く車の外へ飛び出した。
深衣奈の少し栗色がかった髪は肩にかからない程のショートカット。
目はパッチリとして少し上向きの鼻は普段から調子づいた性格であることを物語っている。
「うん、暑いけどいい天気…、そして目の前には例の別荘ね」
改めて天を仰ぐと深衣奈の瞳には地平線の彼方からどこまでも続きそうな青空が映し出される。
そして視線はすぐに例の別荘に向けられる。
別荘というよりは屋敷といったほうがいいのかもしれない。
3階建てのコンクリートは大自然の居場所を強引に割り込む程迫力がある。
そして何よりも3階建てにはテラスが設置されていることが深衣奈の瞳を一気に輝かした。
「乙女先輩、すごいですね」
雛見沢の大自然の中に溶け込めていないのが少しばかり残念だが、まるで雛見沢を支配した感情に別荘が浸っている感じがする。
「いい天気にこの別荘はいつ見ても迫力があるな」
「ええ」
乙女の鋭い視線も今ばかりは力が抜けた柔らかい視線で空と別荘を交互に見比べていた。
「そんなこと言ってないで荷物を運ぼうぜ、2人とも」
都会人生まれの俺にとってはあまり興味がないと言わんばかりに、誠はさっぱりとしている。
「情操教育を受けてないの? 誠って」
「元々ああいう男だ、きっと苦労するぞ深衣奈」
乙女は深衣奈の肩を2回叩くと、荷物を運ぶ準備を始めた。
「何で私は彼にほれたの?」
「お前の感性があいつを選んだろうが」
深衣奈も限界まで詰め込まれたスポーツバッグを両手で一気に運び出す。
すると千華留がオーナーらしき人物と一緒に玄関から姿を現した。
「お久しぶりです、皆様」
メンバーの中でまだ訪れたことのない深衣奈にとってはまだ初対面だった。
「深衣奈ちゃん紹介するわね、この別荘のオーナーの知得留(しえる)さんよ」
「深衣奈さん、はじめましてよろしくお願いします」
「こんにちは知得留さん、お世話になります」
深衣奈が軽く会釈をすると知得留の丸眼鏡が一瞬輝いた。
とてもほんわかな雰囲気をした女性で深衣奈よりも若いということだが、落ち着いた雰囲気が千華留さんと同様、母子本能があるのかお姉さんのように感じる。
「皆様、遠路ご苦労様です。
どうぞ、少し休憩してください」
イギリスの後期ゴシック様式を伺わせる扁平アーチの玄関ポーチを潜り、深衣奈は入るや否やまた目を輝かせた。
「すごい……、映画の1シーンですか? ここ」
「何回来てもすごい、ここは」
深衣奈は唖然とした顔を隠せず、乙女は何度も頷いて感心している。
内部は一変して王朝風に装飾が施されているヨーロッパ調の空間に深衣奈は見惚れていた。
先ほどは無関心だった誠でさえ見惚れているほどである。
「私もこの別荘の管理人を勤めてから2年くらいになりますが、いまだにこの空間に感動しないことはありません、なぜでしょう?」
「建設屋の腕がいいからでしょうね」
「まぁ、お前の何の考えのない答えは的を得てる。ところで千華留は?」
つっこみもナシかよと心中で嘆く深衣奈をよそに、知得留は玄関ホールに一番近い一室の部屋のドアを指差して言った。
「今、用事の電話が入ったとかで部屋に篭っています。
そろそろここで立ち話は何ですので部屋や施設をご案内しましょうか」
深衣奈達は荷物を持ってまず階段を使い2階の寝室へと向かった。
「ここは貸切ですから、もし他に気に入った部屋があったらいつでも言ってくださいね」
赤一色のシルクのじゅうたんが足の踏み場もないほど敷き詰められている廊下は豪華さを伺わせる。
「ここは貸切ですから、もし他に気に入った部屋があったらいつでも言ってくださいね」
知得留は深衣奈達が眠る予定の部屋へ案内した。
純白色のツインベットに高級感が伺える部屋に深衣奈はにやつくばかりだ。
「ここを訪れた外国や政府の要人が宿泊した部屋なんですよ」
丁寧な知得留のガイドに、深衣奈の笑みが増しますます胸が踊りまくる。
「2日間ここで泊まるんですよね?」
深衣奈は荷物をすぐさま地面に置き、いち早くベットに向かい体を落ち着かせようとした。
「待て待て! お前は仮にも自衛隊員だろ。
私達の前でぐーたらな姿を見せ付けるつもりじゃないだろうな?」
「え〜、少しだけいいじゃないですか先輩。
ふかふかのベット見てたら、いち早く飛びつくのは……」
「おいおいお前が飛びつきそうなところがあるんだぞ、来る前にも話しただろう」
深衣奈は指を1回鳴らした後2、3回頷いた。
そうだった、重要なことを忘れていたよ銃の保管庫、銃の保管庫。
「ご案内してくれますか? 知得留さん」
「深衣奈さん、お安い御用です」
「おいおいお前が飛びつきそうなところがあるんだぞ、来る前にも話しただろう」
深衣奈の何かを訴えるオーラを帯びた瞳を見て知得留もわかったらしい。
一同は1階へと下りた後地下へと続く階段を下りていった。
「銃保管室です」
知得留が厳重だと想像させる南京錠を開けると、待っていたのは深衣奈の世界だった。
「どうです? 深衣奈さん、今日はクレー大会ですし遠慮なく言ってくださいね」
何だか、頭がぼけーとする。
少し頭が熱くなってショートした感じだ、しかしすぐに深衣奈は冷静を取り戻す。
「すごいですね、この銃の量はハンパではないでしょう」
一室しかない地下室を利用して作られた鉄砲店とさほど変わらないスペースが設けられている。
銃の数々がショーウインドウに飾っていれば本当に魅力的なのだが、いささか全てのクレー用射撃銃・猟銃が頑丈なガンロッカーに収められており一般人から見れば異様な光景だ。
「俺も触ってみたいけどね」
誠の一般人のうらやましい視線が深衣奈には痛々しい。
「種類は全て揃っているんでしょう? 知得留さん」
「トラップとかスキート用も揃っていますし狩猟用の輸入銃も多いですよ、ウインチェスター系もありますしね。
こういう銃は深衣奈さん好みだと乙女さんから聞きました」
知得留がガンロッカーから取り出したのはレミントンM870。
細部まで黒く塗られた12ゲージの銃身は見かけよりも重く感じる。
「どうぞ」
深衣奈に片手で軽々と渡すところから、知得留も普段銃を扱いなれていることがわかる感じがする。
「なかなか目の付け所はいいですね乙女先輩、知得留さん」
深衣奈の頷きはとまらない、深衣奈が誠に持って見る? と進めたが誠は2・3回首を横に振った。
「何か怪しいぞ、女性として」
「え、そう?」
と深衣奈はポンプ部分に当たる装填レバーを上下に動かしてみた。
威圧感のある重々しい音が部屋中に充満し、少し誠の肩がぴくっと痙攣する。
「昔は輸入銃でも装弾数が3発までの規制がありましたが、今は少し規制が緩くなって7発銃でも大丈夫です」
「便利な世の中よね」
何回も頷く深衣奈に誠は少し引いたような表情で、年齢に合わないようなはしゃぐ表情を隠せない深衣奈を見ている。
「狩猟用で買いましたが、カモなんか撃っちゃったら吹き飛んでしまいますよ」
「じゃあ何に使ってるんです? ここって狩猟ができるようなところですか」
「よく熊が山から下りてきますからね、駆除目的で使ってますよ。
私も猟友会の一員ですから」
何かあまり長話で待たせたら悪いかなと深衣奈は思うが、やはり自分の領域の世界の誘惑は止められそうも無い、つーか止めたくない。
乙女も最初は深衣奈の予想通りの反応におとなしく見ていただけだったが、誠の表情を見て彼の心中を察していた。
彼の心は今、“蚊帳の外”だといえる。
「深衣奈」
乙女の視線が深衣奈の視線を誠の方に誘導させる。
「お前みたいな彼女を持てて俺は幸せだよ」
「そう?」
深衣奈はもう一回装填レバーをスライドさせ、乙女の印象が薄れたウインクをした。
「誠、今日のクレー射撃よろしく頼むね」
◆
玄関先にまとめられた荷物が整理されておかれている。
大きめのボストンバックが2つ、そしてあまり一般人にはおめにかかれない深衣奈や乙女の銃が入っているガンケースが3ケース、装弾ケースが2ケースと結構荷物が多い。
深衣奈達はこれからクレー射撃大会に出場するための準備を整えていた。
「忘れ物はないか、イヤープロテクター、空撃ち薬莢もあるな」
乙女が再々度ボストンバックの中を確認する。
どのグッズもクレー射撃では必要なためだが用心深いのは相変わらずだ。
「じゃあとりあえず荷物を運びましょうか、誠もお願いね」
「へいへい」
男だから別に運ばれないことはないが、なんかだるくて腕の力が入らない。
「深衣奈ちゃんと確認したか? そこのガンケースを持ってきてくれ」
「ラジャー」
よし、荷物を運び終わったし忘れ物はないね。
深衣奈はキーを人差し指で勢いよく回しながら、マイカーへと向かう。
マイカーには既に予定のメンバーが乗っている、今回は管理人の知得留も同行している。
後は深衣奈が乗り込めばいいだけ。
最も自分のお気に入りのスポーツ用サングラスを忘れなかったら、今頃はもっとスムーズに物事が進んでいるのだが……。
「なかなか見つからなかったからなぁ、お気に入りのスポーツサングラス」
しかし急いで駐車場に向かわないと……、あのお方は待たされるのが嫌いだからなぁ。
「お姉ちゃん、私と声が一緒だね」
誰だろう、この娘は……。
別荘の出入り口のところに、セーラー服のショートヘアーの少女が立っていた。
セーラー服を着ているということから地元の女の子だということは容易に想像できる。
聞こえていたかな、やっぱり大きい声だったかも。
でもそんなことよりもこの娘と私の声が似ている。
いや似ているどころじゃない、全く同じだ。
穏やかよく喋っているけど、アクセントの使い方は同じだしなんと言っても声の質が同じハスキー調……。
「ほんとだ!? 声が一緒だ!?」
こういうリアクションが適当だろう。
偶然の出来事かもしれないけど大会前だ、何かいいことがあるかも。
「さて、そろそろ行かなくちゃ」
「え、そうなの? もっとお話したかったな……」
深衣奈はセーラー服の女の子に軽く手を振った後、駆け足で駐車場へと向かった。
乙女先輩は短気だから、なにを言われるやら……。
しかし……、あの女の子、眼が笑っていない……。
駆け足で駐車場に向かう深衣奈に手を振るセーラー服の少女。
しばらくしてから、駐車場から発進していく深衣奈の車を見送った。
「まぁでも明日行われる30年ぶりの綿流し祭でお持ち帰りできるからいいよね……。
今回は私がオヤシロ役だからね……私の綿流し祭だから……」
彼女はこれから鳴くひぐらしの鳴き声を心の中で演奏させながら、口元をにやつかせていた。
「あのお姉ちゃんはぁはぁ、お持ち帰りぃぃぃ……」
作者のあとがき
とりあえずまだ始まりのところを抜け切れていませんが、シーンがいいところで終わりましたのでこのくらいにしました。
いろいろなアニメの登場人物が動き始めましたが、とりあえずほとんどの主要登場人物を出し終えました。(白河ことりがまだですが)
また、この時点でまだ序章なので中盤のアクションシーンへと繋ぐ前座を用意した感じです。
一応まだ仮のシナリオなので何ともいえませんが、一部の人から男性キャラクターを推薦依頼をしてくれました。
「『スクールデイズ』の伊藤誠よりも『種死』のシン・アスカもいいぞ」ということですが、シリーズ化したいのでいずれかは登場することになると思います。。
まだ、仮公開みたいなものですし……。
後シーンの解説をしますと、最後の深衣奈とセーラー服の女の子の掛け合いで声が一緒だと言っているシーンがあります。
直感でわかってくれた人もいるかもしれません。一応この作品は結構特殊性が高い作品です……。
セーラー服の女の子の正体もわかっている人は自然に声が一緒だという点に結びつくと思います。
そういう要素も絡ませたほうが娯楽性が高いかなと思って、入れて見ました。
これからも頑張って執筆しますので、またヨロシクです。
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